さて、今回は、生協・協同組合論についての考察の概論をお伝えします。

2015年に一般社団法人地域医療・福祉研究所(略称:ARSVITA:アルスヴィータ)を立ち上げて以来、研究テーマとして協同組合の今日的役割についての研究を行ってきました。

この間の情勢の変化との関連などでの試論をまとめましたので概要を紹介します。

分析対象の中心は、医療福祉生協となりますので生協全体とは少し趣が違いますが、基本点は同じだと思っています。

【結論】

結論から言うと、日本の資本主義体制が新自由主義、経済のグローバル化にシフトし、それが地域を変え始めた時期にそれに対応する運動論、組織論づくりに成功していないのではないか、ということです。

では、どういう運動論、組織論が必要かと言うと「マルチパーパス型、生活全面支援型」の生協づくりではないかというのがアイデアです。

収入・雇用・健康・孤立・格差拡大という生活全般の危機の時代には、「安心安全な食品を提供する」、あるいは「医療や介護という『いざ』という時だけ頼りになる」だけでは、組合員の満足度は得られないのではないか、生活全面を支援する生協の事業と運動が求められているのではないかというのが仮説です。

早急に「生協間協同を進める」か「マルチパーパス生協に生まれ変わる(創る)」か、どちらかが求められているのではないでしょうか。

【生協の現状をどう捉えるか】

①高度経済成長期に伸びた生協モデル

1980年代の前半までは、各地の生協がそのタイプに関係なく前進します。公害や安全をテーマにした地域運動の前進、革新自治体の成立などの政治的背景、団地での主婦を取り込んだ集団配送と班の組織化などの情勢とその対応の運動論と組織論を要因として生協は飛躍的前進を遂げます。

高度経済成長で輸出産業が日本の経済の柱となる中で、都市部への人口の流入、専業主婦、団地の誕生、急速な産業発展と自然環境との軋轢などが生協の政策とマッチします。

②新自由主義・経済のグローバル化の地域への対応が遅れた生協陣営

1980年代以降、臨調路線や新自由主義政策で困難な状況もありましたが、地域に密着した運動は住民の支持を受け、大きな困難はありませんでした。

問題は、リーマン・ショック以降、世界的には時代遅れとされた弱肉強食の新自由主義が、日本では安倍晋三政権のもとで全面復活したことです。「アベノミクス」の「成長戦略」で、「世界で一番企業が活動しやすい国」づくりが行われ、それが本格的に地域経済と生活を破壊し始めます。

世界中で格差拡大と貧困化が耐え難いものになり、日本では、賃金の低下が続くなか、「デフレ不況」が長期に続き、格差が拡大しました。

この時期に、それらの地域の変化に対応する運動課題が提起されることはありませんでした。

かつての生協運動の伝統からいうと生協陣営、協同組合陣営がそれぞれの得意分野、専門分野を活かして組合員の生活防衛の共同戦線を張る可能性もありました。

しかし、実際にはその提起もなく、結果としてそれぞれの分野での対応に終始し、歴史の大きな変化への攻勢的なチャレンジとはなりませんでした。

【今生協に何が期待されているか】

①高齢化や少子化という日本社会のトレンドより、「格差拡大」や「孤立化」への対応を正面にすえるべき

ちょっと挑戦的な表現ですが、想いとしては、「高齢化」や「少子化」は心ある人たちは対応を考えます。しかし「人と人とのつながり」を基本とする生協にとっては、人間らしい連帯が壊され、一人ひとりの人間がばらばらにされる「格差拡大」や「孤立化」に真っ先に対応する必要があるのではないでしょうか。

「高齢化」や「少子化」を並列的に考えるのでなく、人間らしい連帯の側面から考えることが生協らしい問題解決の視点を提起できるのではないかと思います。

②「困ったこと」を埒外にしない、「断らない」運動を進める

複雑で困難な情勢が進む中、一握りの集団での解決は難しくなります。課題解決に求められる専門性や特殊性が高まり、自分たちの専門的なこと以外に手を出すこと、事業化することには躊躇が生まれますし、手を出すことが無謀な状況も生まれます。

それでも、「生協」の本質からして、「組合員の要求はどんなことも課題とする」姿勢が必要だと思います。「要求に応えられそうもないから課題としない」と言う姿勢はダメだと思います。

高度経済成長期は、組合員要求を課題にすることにそれほどの困難はありませんでした。しかし現代では専門外のことに手を出すことはコンプライアンスも含めて多くの問題がありますし、躊躇も生まれます。

その問題を回避するのか、アライアンス(連携)対応も含めて対応することを基本とするのか、で大きな差が生まれるのではないでしょうか?

今ARSVITAが前進している生協と評価しているは、購買生協でも、医療福祉生協でも「福祉」や「住宅」、「配食」や「移動」など「マルチパーパス型」の生協です。エネルギーから福祉、住宅など様々な問題に対処しています。

うまく対処できるかどうかは別にして、『組合員の悩み丸ごと解決』という視点のない生協に未来は無いと思ってしまいます。

【具体的な生協運動の方向についてのいくつかの提言】

正式のARSVITAとしての見解と対応はさらに組織的に検討するとして、現時点での試論を述べてみます。

①自治体対応の本格的強化

新自由主義経済に基づく国の政策は、自治体ごとに様々な対応を求めています。

地域間、自治体間の格差も広がっていますので、生協としても一つの方針でなく「基礎自治体」ごとの政策が求められます。

しかし現状は、政策や方針では「格差拡大」を述べていても実際に自治体ごとの対応になっていません。

私は思い切って組織部や組合員対応の部署を自治体対応型に変えた方がいいと思います。

自治体の職員や議員に対応し、自治体の悩みを一緒に解決する組織に変えていくことを方針として確立すれば新自由主義に対抗する住民運動を組織できる可能性があります。

②マルチパーパスの地域運動

「組合員の困難、要求を解決する」ことを第一義に掲げることを出発点にします。「どうすれば解決できるか」はその次の問題です。

組織内にもう一度その思想と運動論を構築し、「あらゆるつながりで解決する」「新たな能力を身につけて解決する」姿勢が求められています。

③収益構造の強化

今の経営で「何とか黒字」レベルでは、いつまで経っても「マルチパーパス生協」「連携型生協」にはなれません。

新たな挑戦のためには、その資金が必要です。

医療福祉生協で言えば、病院の新築や新たな施設展開の展望もなく、「現状維持」型の方針が増えているという印象があります。

大胆にエネルギーや住宅、地域づくりの新たな分野への挑戦を打ち出し、その資金の確保ができるような収益構造を提起することが求められているのではないでしょうか?

投稿者
藤谷惠三

藤谷惠三

藤谷惠三(ふじたにけいそう)  1955年 広島県生まれ 【現職】    一般社団法人地域医療・福祉研究所(略称:ARSVITA:アルスヴィータ) 専務理事 / 八重山事務所長 医療・介護経営コンサルタント 医療福祉のまちづくり支援専門員 【専門分野】 医療福祉政策 公共政策 社会保障論 医療介護事業経営 まちづくり論 なりわい福祉論 【活動内容】 地域住民が自らの手で医療福祉の事業を立ち上げることで持続可能な地域ケアの実現を目指しています。 医療や福祉の充実が切実に求められる離島(沖縄県八重山地方や大東島地)での住民主体の医療福祉政策・事業づくりを進めています。 社会共通資本や社会的連帯経済の考え方に基づく地域経済づくりと医療福祉分野の協同組合の支援を行っています。 【経歴】    広島大学教育学部卒 東北大学大学院応用経済学専攻科中退 広島中央保健生活協同組合 常務理事  総合病院福島生協病院事務長 日本生活協同組合連合会 医療部長 / 医療部会事務局長 日本医療福祉生活協同組合連合会 専務理事 / 副会長理事

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