さて、今回は昨年12月16日の社会保障制度審議会介護部会に厚労省が提出した2021年度介護保険改正に向けた素案の解説です。
大筋で了解されたので、通常国会にかかり、2021年4月から実施される情勢です。
今回の介護保険制度改革は、昨年2月に論議が始まりましたが、一斉地方選挙や参議院選挙があり、10月まで論議が止まっていました。
その間、6月の「骨太の方針」は、参議院選挙前ということで社会保障制度改革については激しい論調を避けていましたが、9月に行われた内閣改造後の記者会見で安倍首相が突然「全世代型社会保障検討会議」の設置を表明し、すぐに財界中心の委員による論議が始められ、昨年12月19日の第5回全世代型社会保障検討会議で中間報告(案)がまとめられました。
また11月には財政制度審議会の来年度予算に対する建議がまとめられました。
社会保障制度審議会介護部会の財界委員や財務省の建議などでは、「ケアプランの有料化」「介護保険の自己負担の原則2割」「訪問介護における要介護1・2の生活援助サービスの総合事業への移管の移行」などが要求されていましたが、今回は見送りとなりました。
これらの論議の経緯と「何が決まり、何が見送りとなったか」を簡単にまとめましたのでご覧ください。

1.はじめに
(1) 2020年12月16日に介護保険制度の見直し案が決まった
厚労省は、12月16日の第88回社会保障審議会介護保険部会で介護保険制度の見直し案「介護保険 制度の見直しに関する意見(素案)」を提示しました。
これまで様々な論議がありましたが、その多くが見送りや両論併記になっています。将来的な介護保険のあり方について方向性が出し切れない状況が続いています。
(2)今論議されていることは、2021年の介護保険改正
2000年度にサービスがはじまってから20年の間に主要な法改正が4回(2005年、2011年、2014 年、2017年)ありました。
現在論議されているのは、2021年度から実施される介護保険法の改正案です。
この内容が2021年度の第8期介護報酬改定に反映されます。
(3)今回の論議の特徴
介護保険部会での論議は、昨年2月以降行われてきましたが一斉地方選挙、参院選挙中は開かれ ず、10月以降に再開されました。
今年の論議の特徴は、経済財政諮問会議での答申を経て、6月21日に閣議決定された「経済財政 運営と改革の基本方針」(骨太方針2019)に加え て、安倍首相が参議院選挙後の9月11日の内閣改造後の記者会見で、突然「全世代型社会保障検討会 議」の設置を打ち出し、9月20日には安倍晋三首相をトップに関係閣僚と有識者で構成する全世代型社会保障検討会議の初会合が開かれ、年金・医 療・介護・労働など幅広い分野の論議が始まりま した。
その論議に加えて自民党は「人生100年時代戦略本部」(本部長・岸田文雄政調会長)で論議を進め、12月17日に全世代型社会保障改革に関する提言をまとめました。
また財務省の財政制度等審議会が11月25日、令和2年度の予算に関する建議を麻生財務大臣に提出し、国の財政の健全化に向け社会保障制度などの改革を促しました。
このように様々な立場による多様な論議の場が作られ、例年以上に複雑な論議となったのが今年の特徴です。
また、全体としては高齢者関連の社会保障費は大幅削減の様相が強く、介護保険制度や介護報酬の大幅な改悪が予想されていました。
2.今期の介護保険制度見直しの論点 になっていたこと
(1)今回の論議のテーマ
今回の論議は、高齢者数がピークを迎える2040年頃の社会保障制度を展望して、社会保障の持続 可能性を確保するための「給付と負担の見直し」 と併せて、新たな局面に対応する課題である「健康寿命の延伸」や「医療・介護サービスの生産性の向上」を含めた新たな社会保障改革の全体像を目指すことでした。
(2) 財務省・財界が強く求めていたこと
今回の論議では、財務省の建議や、財界代表の委員は、次の点を強く要求していました。
①ケアプラン作成の有料化
② 軽度者(要介護1、2)の生活援助サービスの総合事業への移行
③2割負担の対象者の拡大
これらの論点を中心に厳しいやりとりが行われまし た。
3.厚労省の素案「制度の持続性の確保」に盛り込まれたこと、先送りされたこと
(1) 厚労省の素案「制度の持続性の確保」に盛り込まれたこと
今回の厚労省の素案では、「制度の持続性確保」にかかる部分が大きな論点でした。その素案 で「見直し」が提案されたのは、以下の2つです。
①介護保険施設における補足給付について、現行の第3段階の所得区分を2つに分けて負担の上乗せを図ること。
②高額介護サービス費にかかる月あたり自己負担限度額について、「現役並み所得相当」区分を3段階に分けて上限額の上乗せを図ること。
(2)「見送り」となったこと
今回の厚労省の素案では、介護保険部会で論議されていた以下の4つテーマは「引き続き検討」= 「見送り」となりました。
①介護施設の多床室の室料負担。
②ケアマネジメントへの利用者負担の導入。
③ 要介護1・2の生活援助等の総合事業への移行。
④ 2割負担の範囲拡大に向けた「所得」の判断基準の見直し。
(3)財務省の建議の反映は限定的
11月25日に財務省の財政制度等審議会が出した建議と比較すると、多くは見送りとなっています。 この背景には、事業者や利用者からの懸念や批判が強かったことや総合事業からの事業者の撤退 が相次ぎ、担い手が不足していることなどがありま
す。
4.これから何が起こるか
(1)介護サービスを利用する場合の自己負担の上限が引き上げられる
高所得世帯については介護サービスを受ける際の自己負担の月額上限が引き上げられます。(高額 介護サービス支給制度)
現状では、世帯年収が約383万円以上の人の自己負担の月額上限は4万4400円ですが、年収が約 770万円以上の場合は9万3000円、年収が約1160万 円以上の場合は14万100円になります。 。
(2)介護施設を利用する低所得者の食費・居住費の自己負担が増える
所得の低い高齢者に介護施設の食費・居住費を補助する「補足給付」の支給要件が厳しくなります。
いまは年収155万円以下の住民税非課税世帯のうち、預貯金などの資産が「1千万円以下」の人が 対象です。
今回の改定では、収入に応じて「年収80万円以下の人で預貯金650万円以下」「年収80万円~120万円以下の人で預貯金550万円以下」「年収120万円以上の人で預貯金500万円以下」の3区分が設定 され、非課税世帯に「年金収入等が120万円超」という新たな区分が設けられます。
また預貯金などの額も「1千万円以下」から 「500万円以下」に引き下げられ、年収が120万円超の人は、介護施設を利用する際の食費、部屋代の自己負担が月額2万2千円増えます。
また、施設のショートステイ利用者の食費の自己負担も収入に応じて1日210~650円負担増とな ります。
(3)ケアマネの処遇改善や事務負担の軽減が論議の焦点になる
今回の素案には、「ケアマネの処遇改善や事務負担等の軽減」が盛り込まれています。
同時に「医療をはじめ多分野の専門家の知見にもとづくケアマネジメントが行われることが必要」、「インフォーマルサービスも盛り込まれたケアプランの作成を推進」などケアマネージャーの 負担増も考えられます。
事務負担の軽減についても、「働き方改革」が意識されていますが、ICT化などを通じた生産性向上を目指す方向に誘導される可能性もあります。
これらによって居宅介護事業所に新たな設備投資が求められ、小規模事業所の経営の悪化をもたらすことも考えられます。
(4)介護報酬でマイナス調整がされる可能性がある
今回財務省は、2025年度の介護保険の総費用を2000年のスタート時の4倍超と予測しています。そこで今回の介護保険制度(介護保険法)改正では見送られても、2021年度改定の介護報酬がマイナ ス改定になることも予想されます。
今回は「見送り」になったことも次回の改訂では必ずまた論点となります。
特に「ケアプラン作成の有料化」「軽度者(要介護1、2)の生活援助サービスの総合事業への移行」などは、介護保険制度そのものの変質と言わざるを得ません。
介護制度発足から20年を経て、当初予測できなかったこと、初期から制度設計の失敗だと私たちが指摘していたことが大きな矛盾となっています。
今後、これらの課題を解決しながら介護保険制度を本来の目的を実現する制度にするための努力が求められます。